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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1345 『邂逅の時』(石川三恵子・川合将明/ダイナソア/PC88)

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日本ファルコムがおくる3DRPG・ダイナソアより、

石川三恵子・川合将明作曲、『邂逅の時』。ゲームオーバーの際に流れます。

上記動画の45:21から48:00まで。

PC88末期のオリジナル作品として登場した本作。彼が味方した軍は必ず負けると噂される歴戦の傭兵、人呼んで灰を撒く者・アッシュは、光り輝く蝶に導かれるようにしてやってきたザムハンの国で、出会った仲間たちとともに数奇な運命を辿ることになる。タロットカード風の絵柄で紡がれるダークファンタジー調の3DダンジョンRPGである。基本的には無口な主人公を軸とした視点だが、仲間キャラはそれぞれ異なる信念や業を抱えているため、一種の群像劇のような趣がある。通常のプレイで辿る表シナリオのほかに、仲間の顔ぶれや物語の進め方が異なる裏シナリオが存在し、元々暗澹としているがさらに辛辣な作風を垣間見ることができる。探索関連の特徴としてまずエンカウント率の高さが挙げられるほか、オートマッピング機能は未実装で地道な手作業を要するなど、良くも悪くも古典的でストイックなつくりとなっている。戦闘や成長関連は概ねスタンダードな設計だが、本作独自のパラメータとして技術というものがある。剣や魔法などを使い込むことで技術ごとに経験値が溜まり、レベルが上がると技が強化されたり新たな技を覚えたり、一定条件で別の仲間に技を伝授したりできる。作風も遊び心地も重苦しい分、濃厚な魅力を湛えた意欲作に仕上がっている。後にPC98とFM TOWNSに移植されたほか、PC向けにリメイクされた。

本作の音楽を担当するのは石川三恵子氏と川合将明氏。川合氏は当時、石川氏は現在もファルコムに所属している作曲家である(石川氏は現在は同社の取締役である)。本作以前だと両名はドラゴンスレイヤー英雄伝説での共作経験がある。本作では暗くシリアスな世界観に見合った、悲痛さと激情が入り混じったような楽曲が揃っている。戦闘曲や物語後半にかけてのBGMを中心にぎらついた感触のあるアグレッシブな曲調が見受けられる一方で、イベント曲や一部のダンジョン曲などは重く憂いを帯びた調子で、うまくメリハリがついている。曲の尺はしっかり長めに用意されているが、特にダンジョン関連はエンカウント率ゆえに作中では通しで聴きづらい傾向にある。サウンドトラックについては音響調整を施した通常盤、FM音源完全版(PC-9801-86音源ボード)、リメイクのリザレクションのアレンジ音源の収録したものがそれぞれ発売されている。

ゲームオーバーの際に流れるのがこの曲である。ゲームオーバー画面には「アッシュの体は 静かに地に崩れ落ちた」から始まる一連の味わい深い文章が綴られ、その余韻に浸らせてくれるように、短いジングルではなくれっきとした曲が用意されている。手始めに長く引き延ばした音色を奏で、深く哀しく美しい雰囲気を目一杯漂わせる。主旋律を支える伴奏は、ひたすら似たり寄ったりの音色を交互に鳴らす簡素なものだが、かえってその簡素さが身に染みるような、直に心に触れるような感触をもたらす。38秒過ぎ(上記動画の45:59)には流れが変わり、長い音価の和音を用いて穏やかでやや明るめな旋律を紡ぐ。特に曲を締め括る最後の音色(46:34~38)は顕著に明るい響きを帯びていて、道半ばで斃れたゲームオーバーの状況から外れる印象さえある。ただ、曲名はどこか前向きなネーミング(「邂逅」は巡り合いのことで、悪い意味で使われることはあるが通例好ましい意味)であるし、どれほど味方が死のうとも自分だけ生き延びてしまったという主人公の来歴を踏まえれば、その魂は死してようやく救われたとも考えられる。感慨が込められた一曲である。

とてもとても素敵な曲ですね。リザレクションではテンポを落としたオーケストラ風のアレンジが施されています。あわせてどうぞ。

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