VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1400 『Shipwrecked』(Tommy Tallarico/Treasures of the Deep/PS)

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Black Ops Entertainmentがおくる日本未発売のアクション・Treasures of the Deepより、

Tommy Tallarico作曲、『Shipwrecked』。

ミッション「Wreck of the Conception」およびスタッフロールで流れます。

アメリカのゲーム会社・Black Ops Entertainmentの初期の代表作にあたる本作。元米国海軍特殊部隊所属で現在はUMA(海底傭兵機関)雇われのダイバーであるJack Runyanは、海底に眠る宝を求めて様々な任務を請け負うことになる。ぜんぶで14から成るミッションクリア型の3D海洋アクションで、直接スキューバダイビングで挑む場面もあれば、小型潜水艦を操作する場面、ROV(遠隔操作の無人潜水機)を用いる場面もある。舞台となるロケーションはプエルトリコ海溝、グレートバリアリーフ日本海など世界各地に及び、任務の内容はサルベージ、敵設備の破壊、遺骸回収など多岐にわたる。海には鮫や海賊など危険な敵対勢力がいるほか、渦潮や地震をはじめとする自然の脅威に巻き込まれることもあるため、武装を整えて適切に対処する必要がある。酸素の概念やリソースの管理といった駆け引きも存在し、そのうえで寄り道の遺物集めや絶滅危惧種の保護、ボーナスミッションとして鮫を操作して魚も人も見境なく喰らうミニゲームも搭載されている。画面酔いを催すような独特な慣性があるが、それも含めて臨場感のある海底探検を味わえる仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのはTommy Tallarico氏。アメリカ出身の作曲家で、自身の名を冠した個人スタジオ・Tommy Tallarico Studiosを構えている。Black Ops製の作品には頻繁に携わっていて、本作では作曲に加えて効果音も兼任している。本作では世界各地を舞台としつつも、共通して海を描いていることから、楽曲に関してはあえて地域色を抑えた無国籍な路線を採用している。映画音楽的なシンフォニックサウンドや、ギター(アコースティック・エレキ問わず)を象徴的に用いたもの、コーラスやシンセをフィーチャーして海の神秘や宝探しのロマンを表現したものなど、バラエティ豊かな楽曲群を堪能することができる。サウンドトラックは長らく未発売だったが、15年以上経ってから各種デジタルストアで配信されるようになった。

ミッション「Wreck of the Conception」で流れ、スタッフロールでも流れるのがこの曲である。有名なスペインのガレオン沈没船をめぐるミッションで、任意のトレーニングミッションを除くと初任務にあたるため、この曲は本作の最初と最後を飾る実質的なメインテーマである。透き通るようなピアノ、規則的なパーカッション、さりげなく寄り添うギターを組み合わせて、イントロの時点で猛烈に琴線に触れてくる寂寥感を生み出す。が、これはまだ予兆に過ぎず、21秒で小休止を挟んでイントロが明けてからが本番である。ギターの響きはフラメンコ的とも取れるが、45秒から鳴り出すスチールパンの独特な倍音はトロピカルな印象があり、さらには1分33秒から加わるエレキギターは特定の色に染まらない存在感がある。イントロ以降長く出番が控えめだったピアノに1分56秒で再度見せ場が与えられると、ギターの程よい合いの手と相まって、当初漂っていた寂寥感に代わって心地良いノスタルジーが感じられるようになる。切なく物悲しく、心を惹き付けてやまない海の魅力を見事に体現した一曲である。

素敵の極致ですね。この曲が走馬灯がてら流れるなら幸せかもしれません。