VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1402 『ELM-39』(塩田信之/サマーカーニバル'92 烈火/FC)

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キッドがおくるシューティング・烈火より、

塩田信之作曲、『ELM-39』。表の3面と4面で流れます。

ナグザット主催のゲーム大会・サマーカーニバルの92年度対象作品として登場した本作。西暦2302年、銀河系を統一した人類のもとに歴然の武力差を以って侵略してきた謎の宇宙艦隊に対抗すべく、最新鋭巡航戦闘機・RECCAが出撃することになる。残機制の縦スクロールシューティングで、通常プレイで全4面(表)、クリア後特定手順で全7面(裏)、他にスコアアタックやタイムアタックに挑むことができる。武力差は歴然という設定を踏まえてか、とにかく敵と敵弾が間断なく飛び交う点が特徴である。ビジュアル面ではラスタースクロールや多関節といった見映えの良いものもあれば、ハード性能が追いつかず画面が頻繁にチラつくがそんなのお構いなしという見映えを犠牲にしたものもあり、一種異様な雰囲気を呈している。操作は十字キーでの移動と2ボタン(自機とオプションのショットボタン、連射可能)から成る。ショットを撃たないでいるとエネルギーが充填され、充填中は多少の敵弾を防げるバリアが展開されるほか、充填が完了すると通常弾の代わりにボンバーを放てるようになる。このボンバーは大概の敵弾を掻き消せる強力な性能を持ち、所持制限等はなくエネルギーさえ溜まれば何度でも使える。下手に動き回るよりパターンを把握してどっしり構えるのが吉という斬新なゲーム性と相まって挑戦的な怪作に仕上がっている。

本作の音楽を担当するのは塩田信之氏。当時キッドに所属していた作曲家である。本作では音楽も挑戦的で、比較的柔らかめなファミコン音源でありながら硬派なアシッドテクノ調の楽曲を取り揃えている。ガツンと響く打楽器や、PCM音源を駆使したオーケストラヒット、やたら怪しげで良い意味で耳障りな音色の鳴らし方などが印象的で、本作の独創性を高めるうえで大きな役割を果たしている。また、当時の平均をゆうに上回って主要な楽曲の尺は5分近くある点も特筆に値する。サウンドトラックについては、本作単体で一部アレンジも含むもののほかに、武者アレスタとスプリガンシリーズとセットで収録したナグザットシューティングコレクションが存在する。

表の3面と4面で流れるのがこの曲である。前述の通り、本作では通常プレイで全4面(表)、クリア後に難易度が上昇した全7面(裏)があり、この曲は前者の後半2つの面で流れる。3面は暗黒の宇宙空間に緑色の基地のような構造物があり、レーザー砲台が猛威を振るう。4面はボスラッシュでしきりにボス戦の曲に切り替わるため、この曲は戦闘の合間の間奏曲のような立ち位置である。忙しく周期的に刻まれるビートに、低音域で繰り返しブザーを連想させる音色を組み合わせることで、聴いていて瞬間的な驚きはないものの身構えたくなるような危機意識を醸成していく。13秒で打楽器が猛るのを合図に、14秒から不規則なように見せかけて規則的でミニマルな低音のメロディーが入る。28秒から今度は高音が加わり、32~34秒や39~41秒など一定間隔でまるでモールス信号か聴力検査の音を思わせるような音色を配置する。この音は56秒以降で途絶えるかと思いきや、1分4秒から連続して鳴るフレーズが待ち受ける。さらに興味深いのが1分39秒以降や2分7秒以降でキーが変わるときで、リズムそのものは変わっていないが只ならぬ緊迫感を生み出す。これは2分50秒以降で徐々に声部が欠けて疑似的なソロパートが設けられるときも同様で、曲全体を貫くノリが変わらないなかでも緊張の高まりが感じられる。危機という概念をそっくり音に映し取ったような一曲である。

なんかこう、面食らう曲ですね。